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吼える月
第36章 幻惑
「あのさ、四凶なんだけど……、四神獣みたいな支配領域ってあるのか?」
サクは、ユウナが助けに来る直前までに、二種の声がしていたことを思い出していた。
――ワレハコントン。ゲンブナドニオサエラレル、オマエトハチガウ!
そのうちのひとつは、〝コントン〟と名乗り、そしてもうひとつに食われたようだった。
だとすれば、自分が契約をしている邪なる者は、四凶のうちのひとつなのかもしれない。
『我らは東西南北の四位に沿って守護をしておるが、四凶には我らの盟約のような方位の制約を受けぬ。よって四凶ひとつずつを我らひとりで封印することは敵わず、四凶は揃って西に流れた。即ち、白虎が守る白陵へと』
「それで? 白虎がひとりで封印したと?」
『ひとりで出来ると豪語しておったが苦戦したため、結局我らは白虎に遠隔から力を貸して、封印と相成った。とはいえ、相手は獰猛な四凶。隙あらば封印を破ろうと暴れ回る。長年封印が叶っていたのは、白虎が策を弄したのだ。あやつ、小賢しい知恵だけは回るゆえ。それは具体的にはわからぬ。我は高慢なあやつには興味ない』
随分と仲がよくないらしいと、サクは苦笑する。
「四凶と餓鬼の違いは?」
『餓鬼は、飽くことなき邪なる残留思念が宿るひとの体に、姿を持たない魔の雑魚が融合したもので、なにを食らっても満たされぬ虚構のようなもの。然れど四凶は、生まれながらに奇怪な姿を持つ悪の権化。餓鬼を率いる親玉と思ってよい。……古のこの大陸はそれは凄惨だった。多くの魔が跋扈し、その頂点に四凶が君臨し、魔の世界を繋げてさらに多くの魔を呼んだ』
サクはなにかを思い出しそうな気になったが、記憶は定まらない。