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吼える月
第37章 鏡呪
――テオンちゃん、ふたつのうちのひとつだよ。シバちゃんが瘴気に囚われて魔物化し始めた時か、シバちゃんが自力で瘴気を身体の外に押し出した時か。その時じゃないと、ユエの笛は効かない。
「ユエ、あのさ。もしもシバが魔になったら、ユエの浄化の笛でどうなるの? 元のシバに戻るの?」
するとユエは、難しい顔をして言った。
「この感じでは戻らないと思う。シバちゃんの意思が、弱すぎる。シバちゃんは、戻って来たくない〝なにか〟を夢見ているのだと思う」
「戻ってきたくない〝なにか〟……」
自分の父親を憎み続け、それでも共に戦った後は、共に新たな蒼陵に住むという選択肢を選んだシバだ。
それがどんなに受け入れがたいもので、だからサク達と旅に出ているにしても、それでも頑固者のシバがジウを受け入れることを、自分で決めたことには変わらない。
ジウ以上に、シバには逃避したいものがあるというのだろうか。
それは、長年『海吾』として一緒の生活をしてきたテオンですら、見当も付かないことだった。
原因がわかるのなら、大丈夫だと安心させることでシバが戻ってきそうなものを。
「この状態で、ユエが笛を吹いたら……、シバちゃん、他の魔のように消滅しちゃうと思う。滅ぼされることを、望んでいる気がするから」
「そんな……っ」
つまりは、シバの生きたいという意思をしっかりさせねば、シバに侵蝕する魔諸共、彼は滅んでしまう。
「だからユエ、笛……吹けない」
ユエは手で握る横笛を見つめた。
「でもね、テオンちゃん。シバちゃんは青龍の力がある。神獣の加護に賭けて、吹いてみるのも……」
「憶測で動くのは危険だ! 例えば魔を脅す程度に浄化の力を弱めることは?」
「出来るとは思うけれど……、でもシバちゃん、苦しむと思うよ? あの魔……厄介だから。よりによって、頑固で粗暴な奴が出て来たから」
「え? ユエは魔の正体がわかるの?」
「うん。四凶がひとつ、檮杌(とうこつ)」