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吼える月
第37章 鏡呪
◇◇◇
「シバ! 負けるな、戻ってこい!!」
テオンが声を張り上げるが、その声は届かず、サクとユウナの幻影に惑わされていたシバは、獣じみた咆哮を上げた。
同時に触手のような黒いものがシバを取り囲み、片膝をついた彼の大きな体を巻き付き始めたのだ。
――ユエの笛は、ただの邪気か、瘴気で魔物になったのしか効かないの!
テオンの横で強張った顔をして立つ幼女は、片手にある横笛を握りしめてシバを見つめている。
熊鷹は両羽で顔を隠し、時々その隙間からシバを窺っているようだ。
このまま、待っていていいのかという不安が、テオンの中に渦巻いていた。
シバが、黒い瘴気に打ち勝ってくれるようにと願っているものの、事態は楽観できない。
現にあの孤高のシバが、邪なるものの前に膝をつくことを許しているのだ。
今では、テオンが見た幻とシバが見ている幻は同じかどうかも、確かめる術もないが、サクとユウナの幻は、テオンが真実を看破した時点で霧散したというのに、シバの中では終わっていないのは確かだ。
彼が引き続きどんな幻を見て、サクの名前を憎々しげに呼んだのか、刀を振り回したのか、幻術使いであるテオンにはわからない。
それでもまだなにかに抵抗しようとしていたから希望はあったのに、黒い瘴気を巻き付かせている今は、嫌な予感しかしないのだ。
シバは、魔になるのではないかと。