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吼える月
第37章 鏡呪
 

 神獣の力を持たずとも、テオンの体全体が感じる。

 びりびりとした威圧的な……凶悪な気。
 圧倒的な存在感。
 そして、嗜虐的な殺気。

 それを発しているのは、青龍刀を手にするシバからだ。

「な……」

 気圧される――。

 息すら奪われるおぞましさ。

 それは、蒼陵の侵略者であるあの金色ともまた違う。

 赤い目がテオンを見つめた。

 それはシバの意識によるものではなく、テオン達を生餌として値踏みしているような、残虐な眼差しであった。

 テオンがじりと一歩後ろに退くと、それを合図にしたかのようにして、シバがテオンにとびかかってくる。

 瞬間移動のように、一気に間合いを詰められ、テオンは引き攣った声をあげた。

「ひっ!?」

 寸前で刃から逃れられたのは、偏に本能だ。

 元々すばしっこかったことと、勘のよさが幸いし、シバが軽々と操る青龍刀からの猛攻からなんとか逃れたが、如何せん、テオンには体力がなかった。

 酸欠になって、足が縺れて転んだテオンに、無慈悲にも刀が振り上げられる。

 ぴぇぇぇぇぇぇ!!

 熊鷹が、阻止しようとくちばしでシバの後頭部を突こうとする。

 だがそれを察知したシバが、振り返らずに反対の手から黒い光を放つと、熊鷹は甲高い声を遠くさせて、吹き飛ばされた。

 その隙にユエが、刀を掴んだシバの手にがぶりと歯を立てるが、シバはそれで刀を落とすわけではなく、噛みついたままのユエを放るようにその手を回しただけ。

 ユエもまた遠くに転がった。

 シバの刃先がテオンの首に近づき、にたりとシバが笑う。

 テオンは命を危機を感じて、ごくりと唾を飲み込み、静かに目を閉じた。

 そして――。


「いちかばちかだ!!」

 カッと見開いたテオンの目が光り、景色が揺らいだ。

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