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吼える月
第37章 鏡呪
「負けぬ、我は負けぬ! 我は四凶、我は檮杌! 神獣の力を持つ男を食らい、此の世のすべてを食らう者! たかが人間如きに、我が負けるものか」
闇が勢いを増し、ふたつの青を黒く染めようとする。
「させるかよ!!」
しかし水色の力もまた強くなる。
今度は一直線ではなく、あちこちに跳ね返るようにして、幾重にも闇を取り囲んだ。
「ぐぐぐぐぐぐぐ、なぜ勢いを増す! 玄武如き、青龍如き、我を倒すことは出来ぬ。我は檮杌! 我は……ぬをををををををををををを!!」
シバの体から、青い光の威力に臆した黒い触手が蠢く。
「ぬぬぬぬぬぬぬ、人間の、たかが人間の! こんな程度の力は、幾ら力がないとて、我にも凌げる――っ」
「高慢なお前は、ふたつの過ちを犯した」
静かなる声が聞こえる。
「〝たかが〟人間をなめたこと。そして、この場にある神獣の力は〝こんな程度〟だと驕ったこと」
「なに……が言いたい」
「だけどひとつだけお前はいいことをした。それは……、なかったはずの神獣の力を覚醒させてくれたこと。まあ正しくは、神獣がその心意気を認めたということだが」
「え……? ぐぉぉぉぉぉ、なんだ、この笛の音は! これは……ジョウガの……がああああああ、ジョウガあああああああ」
ユエが奏でる、静かなる笛の調べ。
光と音に苦しむシバの体から、彼を蝕んでいる黒い闇が姿を現した。
それは伸び縮みしながらひとの顔を作り、長く鋭い牙を見せたが、その姿を保っていられないのか、闇が薄くなったり濃くなったりを繰り返した。
「これシキ……、コれシキ……わレは……」
その時、一気に青色の光が強くなり、闇が悲鳴を上げて濃度を弱める。
「まダ、アルのか。なぜ、ドコかラ、この力は……」
「いくらかは、戦力になってる?」
光に包まれて立っているのは、頭を両断されたはずのテオンだった。