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吼える月
第37章 鏡呪
「俺を助けてくれたのが姫様だ。イタ公もそうだ。自分だって辛いのに、姫様に玄武刀を託した。あの怖がりなラックーだって、姫様と一緒に魔と戦っていてさ。皆がいたから、今俺はここにいる」
重厚な飾りがついた玄武刀。
それは、ユウナの華奢な体には似合うものではなかった。
「姫様、怖かっただろうなって思う。玄武刀に宿るイタ公の力だけしか頼りにならない中で、戦士でもねぇ姫様が体を張ってくれたんだ。男としてどうのというより、臣下としてこれ以上の主はいねぇと、強く思った。姫様にずっとついていきたいと」
まっすぐなサクの眼差しが眩しすぎて、シバは視線を地面に落とす。
「お前はどうだ、シバ。テオンはお前のために、あんなに小さな体を差し出した。魔に支配されている姿を見て尚も、お前の心を戻すことを優先させたテオンは、まだお前の中では、庇護すべき元「海吾」の仲間なだけなのか。ただの腐れ縁だけで繋がっている関係なのか」
「オレは……」
シバは、握った拳に力を込める。
「簡単に魔に魅入られた自分の不甲斐なさは、俺にも十分にわかる。どんなに自分で強くなった気でいても、簡単につけこまれる心の弱さは、変わってねぇと証明されたようなものだ」
シバは、悔悟に満ちた黒い瞳をじっと見つめる。
「だからこそ、俺達が強くならねぇと駄目だろう? 命をかけて俺を生かしてくれたのなら、もう二度と同じことを繰り返しては駄目だ。今までの自分を変え、魔に膝をついた忌まわしき出来事が、自分にとっては『必要だった』と思える、変化の起点にしねぇと。そこに囚われたらなにも出来ないぞ」
サクはシバの背中を叩く。
「お前はひとりで気負い過ぎなんだ。今までお前が懸命守っていたから、テオンもユエもワシもお前を助けた……ただそれだけじゃないか。少しぐらいあいつらに守られて、よかった助かったと肩の力を抜けよ」