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吼える月
第37章 鏡呪
「しかし……」
「誰かひとりだけが頑張っても、駄目だ。皆で頑張らねぇと。そうやってお前達も、知恵を出し合い守り守られ、ここまで罠を抜けてきただろう?」
シバは、今までのことを思い出す。
そうだ。
サクの言う通りだ。
物知りで頭のいいテオン。
陽気で世間知らずに思えて、歴史に詳しく、浄化の笛を奏でられるユエ。
あの巨大なラクダを背に乗せて飛んだり、とにかく空中で活躍した熊鷹。
彼らのおかげで、切り抜けられてきたのだ。
「俺だってそうだぞ? 姫様はのほほんとしているけれど、勘も頭もいい。ラックーはあんなラクダだけど、神獣の知識はある。だから進んでこれた。俺ひとりならまず無理だった」
同じく魔に魅入られ危険に陥り、同行者に助けて貰っていたというサク。
「今度からは絶対、俺が命を賭けて守ってやる。俺はそう心に誓った」
同じく武神将の息子として生まれて、同じく体を鍛えてきたはずなのに、この前向きさは、性格だけが要因ではない。
誰かを守りたいと思って守っているサク。
誰かを守らねばならないと思って守っていたシバ。
サクは守ることに自分の存在意義を強めすぎたため、そしてシバは自分の存在意義を見いだして守っていなかったために、魔につけいられたのだ。
両極端のふたりだった。
それでもシバは、両極にいるサクの言葉に感じ入ったのだ。
自分はどうしたいか――それをずっと考えずにいたからこその失態だったのだと。自分の存在意義がどうであるかを考える以前に、自分はなにをしたいのか、そこをまず考えるべきだったのだ。
――辛くても、人間捨てるんじゃないよ!!