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吼える月
第37章 鏡呪
 
「お姉さん――っ!!」

 ぴぇぇぇぇぇ!!

 熊鷹が大慌てで鳴き、両翼をばさばさとさせている。

 ユウナは着地すると、そのままヨンガの元に駆けた。 

「あたしの武神将を、テオンの武神将を……よくも!! こんなの……こんな理不尽なこと、イタ公ちゃんだって絶対許さない!!」

「お姉さんの手にあるの……あれは……」

 ……ユウナの手には、いつの間にか玄武刀が握られていた。

 かつて引き摺っていた大刀を、ユウナはヨンガに向けてぶぅんと振り回す。ヨンガの髪先が僅かに散り、ヨンガは目を細めて数歩退いた。

 しかし、ユウナが刀を振り回したのは、殺傷目的ではなかった。
 ヨンガからシバを引き離し、そしてサクの元に駆けつけるためだけのもの。

 そう、彼らを守るためだけのもの――。

「サク、サク!! 目を開けて、サク!!」

 刀を放り捨て、サクの身体を揺さぶるユウナの声は枯れていた。
 狂乱しそうなほどの衝撃が彼女の胸を襲っている。

 サクは息をしていなかった。
 脈動も感じない。

 ただ――。

「まだ生きておる、かろうじてだがな。これぞ本当の虫の息。くく…あはははは! まあ、このままであれば、事切れるのも時間の問題だろうが」

 まだ温もりが残っている。
 まだ魂は、ここにある。

 サクはこんな姿になっても尚、死と闘っている。

――まあ、このままであれば、事切れるのも時間の問題だろうが。

 しかしこのままでは、サクの魂を繋ぎ止められない。
 こんな場所に放り捨てられた、無残な状態のままでは。

 ユウナは耳からぶら下がる耳飾りを握りしめる。
 慈愛深い神獣である玄武なら、愛し子であるサクを死なせない。
 
 だから、少しだけ――。
 
「……ユウナちゃん、駄目。イタチちゃんの力を使っては。そんなことをしたら、イタチちゃんはもっと長い眠りにつく! サクちゃんのために、倭陵が滅ぶよ!? そんなの、サクちゃんは望まない!」

「――っ! じゃあどうすれば……っ」

 ここに偉大なる神獣の力がある。
 それなのに、サクを助ける力にならないとは。

「耐えて。これは〝必然的な理(ことわり)〟。だから耐えて!」

「ユエ……。きみは一体なにを知っているんだ?」
 
「ユウナちゃん、耐えるの!!」

 ユウナは耳飾りから手を外し、空を睨み付ける。
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