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吼える月
第37章 鏡呪
一瞬、その光景を目撃した誰もが、なにが起きたのかを理解出来なかった。
ただひたすら、不気味なほどの静寂が広がっている。
「あ……」
静寂を破ったのは、サクから零れた声にならない声。
サクは信じられないと言ったような面差しでユウナを見ると、なにかを言いたげに彼女に向かって手を伸ばした。
しかし無情にも、サクの背中からヨンガの手が飛び出し、赤い光に包まれたその手が引き抜かれる。
鮮血が噴き出すと同時にサクの身体が崩れ落ち、ユウナの絶叫が木霊した。
「いやあああああああああ!! サク――っ!!」
続けてテオンも叫んだ。
「なんで……なんでだよ、ヨンガ! ここまで来た、甥の……同胞の武神将をなぜ――っ!!」
ラクダは、震えながら固まっていた。
「何故か? そんなものは至極明白。緋陵は女の国。男は我らの敵で――」
その時、ヨンガの真上にいるシバが青龍刀を突き立てようとした。
しかしヨンガは顔を向けることなく、人差し指と中指の二本で刃を挟むと、シバ諸共地面に叩き付け、シバの背中を足で踏みつける。
「我らよりも弱き、虫けら」
カッとしてテオンが声高らかに叫ぶ。
「我、神獣青龍に誓願す。我に……」
「テオンちゃん駄目!」
制したのは、ユエだった。
「ここは朱雀ちゃんの力が溢れる聖地。ここで青龍ちゃんを召喚しようとしたり、青龍ちゃんの力を使えば、青龍ちゃんは盟約違反になり、イタチちゃんの二の舞になる! そうしたら、青龍ちゃんの力を無くした蒼陵は、確実に滅んじゃう!」
「でも、でもそしたら、シバもお兄さんも……!」
テオンの目にじわりと涙が浮かぶ。
「我慢するの。ここはヨンガちゃんに逆らっちゃ駄目!」
「でも……」
「我慢して!」
ユエの、幼子と思えぬ迫力ある叱咤に――。
「――あたしは、そんなの無理!」
そう言い放ったのはユウナだった。
目には烈しい怒りを湛えて首にあるイタチをテオンに手渡すと、ユエと三人で共に乗っていた熊鷹の上から、飛び降りたのだった。