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吼える月
第8章 覚悟
「サク、俺は玄武殿にて直接この目で見ているんだ。顔馴染みの屋敷の使用人も姫さんの侍女も警備兵も、シュウも……皆生きている。お前によって怪我を負わせられながらも。その全員が同じ証言をしているんだ」
「違うんだ、信じろよっ!! 親父っ!!」
「……それに。玄武殿に餓鬼が入った形跡はない。建物もそのままだ」
非情なまでの揺るぎない父親の眼差しに、
「そ、んな……そんなの幻だよ……」
サクは呆然として絶句する。
「……サク、今リュカは、祠官を失ったこと、婚儀が中止になったことによる、玄武殿を含めた黒陵国内の混乱を鎮めるために……仮とはいえ、祠官代理として立った。そして、出張って玄武殿に駆け付けた近衛兵とも折衝し、お前のしでかしたことを倭陵の問題に拡大せず、黒陵祠官の裁量内に留めようとしてくれている」
ハンの目は冷ややかだった。
「近衛兵の奴ら"輝硬石"の武具を身に纏い、リュカと俺を威嚇してきた。お前が玄武殿は滅んだと言いながら、近衛兵に牙を剥いて"光輝く者"を抱いて逃走した、これは中央への反乱だと。"光輝く者"と関係がある以上、サクの身柄は中央の……皇主元近衛兵に引き渡せと。近衛兵は威信にかけてお前を捕まえようとしている。
サク。お前はそれも幻だというのか。"光輝く者"を連れて逃げ、近衛兵と闘った覚えはないのか」
「それは……」
サクは口ごもった。
こんな大勢の前、ユウナの髪が銀色になったと証言していいのか、迷ったのだ。その逡巡により、場はざわめく。