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吼える月
第8章 覚悟
「俺はリュカに言われた」
ハンは淡々と告げる。
「お前は正気ではなかったから、捕まえたとしてもすべて幻覚やリュカのせいにして責任逃れをするだろうと」
"――悲しいですが、ここまでの謀反を起こしたことに断罪をしないというのなら、致し方ありません。既に近衛兵の知るところになっているのなら、祠官亡き黒陵を一時的に預かる祠官代理としては、サクに烙印を押して重罪人として生涯地下牢に繋ぐしかない。これが最大の譲歩です。
……そして、ユウナが"光輝く者"と関係したと多くの者が目撃している以上、それを隠し通すことが出来ぬ状況なれば、彼女もまた処遇を考えねば。子でも孕んでいたら尚更厄介。恐らく……幽閉の身となるでしょう。
……僕としては、ふたりを死なせることだけはどうしても避けたい"
「俺はリュカに、祠官代理から警備兵の総司令官として申し遣った」
"サクは……黒崙に逃げ込むでしょう。むしろ近衛兵が動いているのなら、黒崙しか身を隠せる場所がない。警備兵を投入してユウナと共に連れてきて下さい。もしも貴方が正義を忘れ、息子可愛さにその任を放棄して逃走の手助けをするというのなら、私は祠官代理として、貴方だけではなく……サクを匿うすべてを根絶やしにしなければならない。愛する黒陵に禍根を残すわけにはいかないのです"
サクは悔しげに唇を噛んだ。
「今すぐサクの捕獲にと近衛兵が出張ったから、提携という形にてリュカと近衛兵に5日の猶予をとりつけた。5日後にお前を玄武殿に連れてくる代わりに、その間はリュカにも近衛兵にも黒崙には手出しをさせない。……最強の称号を戴く、この片腕の代償に」
利き腕ではない左とはいえ、そのために喪失した最強の武神将の腕。
唇を戦慄かせるサクの前で、再度ハンは言った。
「今日を入れて5日後。お前を差し出さねば、リュカの命で警備兵と近衛兵によって、黒崙は滅ぼされる」