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吼える月
第9章 代償
ユウナとサラが退室した後、部屋にはハンとサクが残った――。
「サク」
ハンに名前を呼ばれ、俯いたままサクはびくりと体を震わせた。
ハンからは威圧感、サクから凄まじいまでの緊張感が生じている。
ハンは鋭い目を細めながら、ゆっくりと言った。
「その場で拳立て10回」
「はあ?」
予想外の言葉に、サクはきょとんとした顔をハンに向けた。
「……10回で不服なら、1000回にするか?」
「増えすぎだろっ! 10回でいい、10回で!!」
サクは何がなんだかわからぬまま、その場でうつぶせで寝そべるように体を伸ばし、床につけた両手拳で体を上下に動かした。
日頃1,000回を1単位で鍛錬を申しつけられるサクにとって、10回はあっという間に終ってしまう。息も乱れる事はない。
「……では、そこに座れ」
ハンの真向かいを示され、サクは首を傾げながら胡座をかいた。
「お前、拳立てして平気か」
「ああ。1000回でも全然元……いや、10回で結構!」
墓穴を掘る前にサクは言い直した。
「姫さんは――」
ハンは厳しい顔をサクに向け、本題に移した。
「皆の前でお前の四肢が砕けたと言っていた。
お前、手足の骨砕けたままで、元気に拳立てまで出来るのか」
「……っ」
そういう切り口で来るとは思わなかったサクは、横を向いて舌打ちする。
舌戦を覚悟していたサクにとって、ハンという存在は誤魔化しがきかない厄介な相手だ。
だが、それでも"契約"の暴露だけはしまいと堅く心に決めていたサクより、父の方が一枚上手だった。
サクが言い逃れが出来ない"異常事態"を確認した上で、逃げ道を塞いでから切り出したのだと、ハンの思惑を知ったサクが悔しがるのは一瞬――。