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吼える月
第9章 代償
「お前の片耳、牙の耳飾りがないのはどうしてだ?」
「……お、落としたん……」
「正直に答えろ、サク。お前の耳飾りは、俺の力が働いている特殊なものだ。"人外のものと契約する"時がこない限り、耳を切り落とさなければ外れることはねぇ」
それはサクにとって初耳だった。
「武神将として玄武と契約してねぇお前から、すんなり落ちるということは、絶対ありえねぇ。かつての俺もそうだった。俺もまた前代の武神将である親父から、耳飾りをつけられたんだ。引っ張ろうがなにをしようが絶対外れることはなかったのに、玄武と契約した途端それは消えた。あの白い牙の如何こそが、人外のものと契約したという対外的な証になる」
ハンの目がますます鋭さを増した。
「だとしたら。……お前、なにと"契約"した」
「………っ」
「……まだ口を閉ざすか。お前の……リュカの腕輪が隠しているその下の黒い痣、それは邪痕(じゃこん)と呼ばれる厄介なものだ。魔の類いと契約した時、或いは魔から呪詛をかけられた時に現れると聞く。
契約であれ呪詛であれ、邪痕は履行中は消えねぇ代物。それが消えていないということは、契約は続行中だろう。……お前の中から、得体の知れねぇものを感じる」
……隠しているものが、口を開いていないのに暴かれていく。
サクが意味を知らずにハンに見せていた"契約"の痕跡は、ハンからすればあまりに明確すぎる証拠だった。
証拠ばかり矢継ぎ早に突きつけられ、焦るサクは反論するだけの頭も回らない。
玄武の武神将は、攻撃されねば動かない。
だが、護るために攻撃をする時は容赦ない。
今まさに、サクとユウナを護ろうとする最強の武神将から、サクは攻撃されていた。
「サク、なにがあったのか言え」
底冷えするようなその声に、サクは思わず唇を噛みしめた。
「サク」
「……知らねぇよ」
「サク!」
両親を心配させたくなくて、限定された命だとは告げたくなかったのだけれど、ハンは大方既に察してしまっている。もう隠し立ては出来ない。
渋々と、サクはハンに語った。