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吼える月
第10章 脆弱
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「なんだよ、これは……」
サクは読んだばかりの手紙をくしゃりと握りつぶす。
「聞いてねぇよ……俺。なんで姫様が……」
その手がふるふると震えていた。
「ずっと一緒に居たいって、あんなに縋って泣いていたじゃねぇか!! 俺を捨てて……ひとりでどうするってんだよっ!!」
その決別の手紙は、ユウナが使用していた部屋に置かれていた。
帰りが遅いユウナとユマを誰もが心配し始め、とりあえずはユマとの仮祝言の話は後にして、外に探しに行こうと男性陣の意見がひとつになった時だった。
――ハ、ハハハ、ハンっ!! サク!! これ、これっ!!
外気にあてられているユウナのために、サラが温かい布団を部屋に運んでいた矢先に、部屋で見つけた手紙。
"シェンウ家の皆様へ"
「姫さんが……俺になにか言いたげだったのを、俺がまずは聞いていれば。あの時既に姫さんの心は、決まっていたというのか。いつ、こんな手紙を……」
サクがくしゃくしゃにした手紙を再度読み直したハン。その渋面に、サラがはっとした顔で答えた。
「そう言えば……夕餉の途中、姫様に紙と筆を貸して欲しいと言われたわ。マヤ様の子供達が目覚めた時にお絵かきをして遊びたいと言われて……」
「じゃあ既に姫様は、ここに……俺の元に戻らない覚悟で、ユマを追いかけて出ていったというのか!?」
サクの声が悲痛さに裏返る。
もしもユマが出て行かねば。
出て行くようなことを、自分が言わねば。
その場限りの甘言でもいい、責任逃れの逃げの言葉でもいい。
ユマを追いつめねば、ユウナがこんな夜更けに家から出ることはなかった。
出るきっかけを与えたのは、自分のせいだ――。
サクの中には激しい後悔が渦巻く。
そしてそれは、ユマのことをユウナに任せてしまったハンも同様だった。