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吼える月
第10章 脆弱
サクの頭の中には、ユウナの残した残酷な言葉が廻っていた。
酒宴時に理不尽な話題をされる前に、既にユウナの心にあった言葉が。
"ユマと幸せにね"
"貴方の子供見たかったわ"
"ずっとずっと……ユマの傍で、素直に愛してあげてね"
"護衛役だからとあたしに遠慮して、この先ユマを泣かせちゃだめだよ?"
「姫様……あんまりじゃねぇか」
報われない、サクの想いが心で苦しいと泣いた。
ユウナの前で潔白でいたかったのに、それを逆手にとられた。
サクが、護衛役ゆえにユマとの結婚を諦めようとしているのだと。
"今度は自分の幸せを第一に考えて生きて下さい"
"姫だから貴方を自由にしてあげられる"
そして――。
「俺のことを思ってくれるのなら、俺を……傍に置いとけよ。なんでいつもいつも……俺を残して違う場所にいこうとするんだよ!!」
"今ここで、護衛役の任を解く"
「こんな……一方的な別れってあるかよ!? 勝手に俺の幸せや自由を決めつけるな!! それに護衛役を解除して、この先どうすんだよ、馬鹿姫様――っ!!」
ハンもサラも唇を噛みしめながら、悲嘆に暮れる息子を見ていた。
どんなことをしても姫を護りたいとするサクの想いがわかればこそ、そんな捨て身のサクを自分も護りたいとするユウナの苦渋の決断がわかるからこそ、サクにかける言葉が出て来なかった。
そんな中、街長はふらふらと動き出した。
「だったら、私の娘は……ユマは、姫と会わずにこんなに長い時間、いずこに? 迎えに……行ってやらねば。哀れな娘を……」
今危惧すべきはユマより、この地形を全く知らない姫様だろうと怒鳴り出したいサクを諫めたのは、厳しい面持ちをしたハンの視線だった。
今は感情論になっている場合ではない。
一刻も早く、ふたりを探し出すべきだとハンの目は訴えていた。