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吼える月
第10章 脆弱
サクは地面を駆け、サラからユウナをひったくる。
唇を震わせながらユウナの頬を撫でると、
「馬鹿姫様……っ」
たまらないというように切なく目を細め、両手で強く抱きしめた。
「こっちの気もしらずに、なに呑気に眠り込んでるんだよ、心配したじゃ……」
……嫋やかな体が、燃えるように熱かった。
「姫様……熱出ているのか!? 呼吸はしてるが、乱れてる……」
体調不良を隠していたのだろうか。
今までユウナの変調を気づかなかったサクは、悔しさに唇を噛む。
「とにかく、姫様を寝かして……親父?」
ハンが苦渋の顔つきで、月を振り仰いでいた。
ユウナの変調に動揺している様子はなく、むしろ既に知っていたかのような表情にサクには見えた。
「ハン?」
それを訝しげに思ったのはサラも同様。サラの問いかけに、ハンは無機質な表情が張り付いた顔を向ける。
「サラ、姫さんの服の下を見てみてくれないか」
「え?」
突然なにを言い出すのか。
驚いたサクが口を挟む前に、ハンの言葉は続けられた。
「その体に……明らかな異変があるはず」
サクには、ハンが冗談や思いつきで、ユウナの裸を見ろと述べているような雰囲気には見えなかった。
確たるなにかの根拠に従って、口にしている……。
……そう思ったのは、サクだけではなく。
「わかったわ」
サラは神妙な顔で頷くと、怪訝な表情の息子をどかせて、密やかに素早くユウナの服の中を覗き込み、……表情を険しくさせた。
「……姫様の胸に大きく、サクの手首と同じようなぐねぐねとした黒い痣があるわ!! 昨夜、浴室で服を着せたときは、こんな痣はなかったのに」
サクは、反射的に自分の手首を手で押さえ、ユウナの胸を見た。
サクもまた、"洗浄"時に、ユウナの裸にそんな痣を見た記憶はなく。
ハンは重々しく、口を開く。
「それは……邪痕。呪詛をかけられた証だ」
――と。