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吼える月
第10章 脆弱
「邪痕!? 俺と同じ!?」
「ああ、だが姫さんの中に"なにか"の気配はねぇ。お前のような契約の証ではなく、これは純粋な呪詛だろう。発動のきっかけは時間的なものか、なにか起因があったのかはわからねぇが、姫さんが今熱を出している"異常"は、呪詛と無関係ではないはずだ」
「呪詛ってなんで姫様が……。なんで突然……」
「ふたりとも、ちょっといい?」
サクが息を飲んだのは、サラの形相が変わっていたからだ。
「姫様はともかく……サク。邪痕……契約の証ってなに? あんた……母さんに、なにか隠していることがある?」
ぎくりとサクが肩を震わせる。
「サク、答えなさい」
怒りの顔で詰め寄るサラを制したのは、ハンだった。
「サラ、それは後で俺が話す。だから今、黙っていてくれ」
ハンの厳しい面持ちに、サラはわかったわと了承して、ただじとりとした目をサクに向けるに留めた。
「姫さんの話に戻す。邪痕をつけた姫様は……熱などという身体的変調以外に、精神にも影響が出てきて気狂いめいてしまうらしい。俺の勘では……かなり深刻だろうと思う」
「え、でも……姫様は落ち着いているじゃねぇか。熱はあるけど」
「今は、無理矢理眠らせられ、落ち着かされているだけだ。目が覚めたらどこまでの凶暴性を持つかわからない。呪詛とは、発動したらこうなるという定型がない。攻撃するのは他者か自分自身か。それは実際見てみないとわからない」
「……。眠らされていたって……今まで話していたあいつらに?」
「ああ」
頷き合うふたりを見比べながら、サラは不思議そうに首を傾げた。
「"あいつら"?」
「お袋は見なかったか? さっき馬で街から出て行った、若い男とチビのふたり連れ。男の服装は黒陵のものではなかった」
「見なかったわ。蹄の音も聞いていないけれど……」
「そんな、入れ違いだったぞ? お袋に聞こえてねぇわけないって」
「いいえ、聞こえなかったわ。私、馬の音にはかなり神経質になっていたんだけれど」
だとしたら、あのふたりはどうやって消えたのだろう。
幻、ではないはずだ。
サクは、一点を振り返るようにして見つめた。
そこにはもぞもぞと動いている影。
「なにあれ……まさかタイラ!?」
……"土産"はあるというのに。