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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
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「最近、お父様もハンも忙しいのか、全然顔を見ていないわね」
ユウナ、15歳。
勝気な性格を示す、凜とした強さを見せる黒曜石のような黒い瞳。
飾り紐で束ねられた、腰まである艶やかな黒髪。
黒が神色とされるこの黒陵国において、ユウナの容貌は決して珍しくはないものの、その可憐さと無垢な笑み、そしてといまだ変わらぬお転婆ぶりは、人々に親しみを与え続け、民衆から愛される姫のままに成長していた。
「今では揺籃にも遊びに行けない……。うぅ……」
堅固に閉められた正門。
それを窓の奥に見届けたユウナは、窓枠に乗せた両手の上に顎を乗せ、何度目かの大きなため息をつきながら、窓硝子を黒水晶の指輪をつけた指の爪で引っ掻き、今の心境を音で示す。
「ひーめーさーまー。キーキーすんげぇ、うるせぇんですが!」
そのすぐ横の壁に背を凭れさせ、眉間に皺を寄せながら両耳に手をあてて喚くのは、18歳になったサク。
腕と首にはユウナの指輪と同じ黒水晶の装飾、両耳からは幼き頃から外したことがない、白い牙がゆらゆらと揺れている。
切れ長の目。通った鼻梁。薄い唇。
男らしく実に端正に整った顔は、常に威嚇めいた鋭さがあり、一見近寄りがたさを感じさせるが、心を打ち解けたものにはあどけなく笑う。
ユウナ同様に、黒髪と黒い瞳を持っているものの、ユウナよりも濃厚な闇色である漆黒色である。
声音はぐんと低く落ち着いたものとなり、ここ数年で身長が大いに伸びて今では父を僅か越し、その体つきは逞しく、より一層野性的な精悍さを強めた美青年となっていた。