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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
柔らかく細められた、どこか愁えた涼しげな瞳。
胸元でひとつに束ねた長い髪。
その黒みがかった赤銅色は、光に当れば金より白銀色に煌めく。
中性的に綺麗に整っている顔立ちは昔と変わらぬものの、初々しい可憐な美少女というよりは、どこか扇情的な色香を纏う妖艶な美女を彷彿させるリュカは、見る者を惹き込ませる妖しい魅力があった。
サクには頭ひとつ低いものの、そのすらりとした体躯は完全に男の持つものであり、麗しく微笑み続ける……いまだ乳白色の服を好んで身につける白皙の美青年は、サクの対照的な美貌の持ち主として、世の女達の注目を浴びていた。
彼は抱きついてきたユウナを両手で抱くと、静かに微笑んでユウナの首筋に顔を埋める。
そしてユウナと同じ指輪をした手で、ユウナの背をポンポンと叩くと、依然微笑んだままでユウナから体を離した。
「元気そうだね、ユウナ」
「体は元気だけど、心はあまり元気じゃないわ。外に遊びに行きたいのに」
「ああ、それはもう少し辛抱だ。予言の時……来年の月夜を乗り過ごすためには、この国の姫である君は、ここで護られていないと」
父の祠官が片時も離さず、今では討伐三昧のハンより側に置く、若き文官。
そのため、リュカにもまた、昔ほど頻繁に会うことはできない。
「別にあたしはサクがいるからいいもの。サクは去年の武闘会の時、成人の部初挑戦で武神将相手に互角に闘ったんだから。ね、サク?」
「……それは、ジウ殿に負けた俺への嫌味ですか」
「ひねくれ者!」
「異常に強すぎるハン様がいるからこそ、ジウ様は毎年準優勝どまり。あのふたりは凄まじい双璧だ。そのジウ様に青龍の力使わせただけでも、サクは凄いよ?」
「そうよ。初めてなのよ、ジウ殿がハンとの決勝戦以外で、神獣の力を出すのは」
援護するふたりに、サクはじとりとした目を向けた。
「でも負けは負けだし。姫様の前で無様なところ、見せたのは変わらねぇし」
「あらいやだ。サクの無様すぎるとこなんか、あたし昔から散々見てきてるもの。いつもハンに怒られて泣きながら素振りしてるとことか。なに今さら。ね、リュカ」
「そ、そうだね」
「……いつの話だよ。今は違うだろ!」
サクは不機嫌そうに声を荒げた。