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吼える月
第12章 心願
 



 ユウナは狼狽していた。



 何かの声にて、目覚めた瞬間――。


 ユウナの気分は、悪夢から解放されたかのようにとても爽快で。

 それとは対照的に部屋に響いていた苦しげな声。


 見れば……男が寝台の下にて、必死に拳立てをしていた。

 ……鬼気迫るものを感じるほどに、凄まじい早さで何度も何度も。


 最初は、サクだと思った。

 そんな死に物狂いで鍛錬するような人間は、ハンに怒られたサクくらいしかいない。


 だが記憶を戻せば、自分はサクを護衛役から外して、自分から離れたのだから、サクが近くにいるわけはない。もうそんな見慣れた風景を見ることはないのだ。


 そして男の体格もサクより大きく、実に男らしい筋肉で覆われ、なにより艶やかな黒髪が腰まである。自分よりも長い。


 この男は、サクではない――。


 ふと、落胆にも似た寂寥感がユウナを襲う。


 こんなことではいけないと、静かに頭を横に振ったユウナは、恐る恐る声をかけてみた。


「あ、あの……」


 直前まで痛みにもがいていたことを思い出したユウナは、誰かに庇護されたのだろうと推測して、それに対して礼を言おうと思った。


 サクと似た声に一度目覚めたような記憶もあるが、今となっては曖昧だった。



 だが男に声をかけると同時に、うっすらとだが思い出す。


 自分は……男になにをされていたのか。

 否――。


 自分は、男になにをせがんでしていたのか。


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