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吼える月
第14章 切望
  
 

◇◇◇



「ず、随分と急な上り道だけど、サク……道あってるわよね?」



 胸元まで生い茂る草。

 草を踏しめて歩けば、ごろごろとした大きな石に躓きそうになる。


 足を鉛のように重くさせる急勾配に、辟易する。


 長旅に耐えられるようにと、姫らしい上質な服よりは、より動きやすい機能的な服や草履をサラは与えてくれたものの、幾らお転婆なユウナとて、そう易々と歩ける上り坂ではなかった。

 ふらつきながら歩くユウナは、平然と前を歩くサクを恨めしげに見る。

 完全なる体力の差。鍛えられ方の差。


 ……男と女の違いを、はっきりと見せつけられる。


 サクは、どこまでも男なんだ――。


 そんなユウナの戸惑いを知らず、周囲に目を光らせながらも、サクは飄々と軽く言う。


「ああ、坂道なのは仕方がねぇですよ。崖に向かう獣道ですから」

「崖? え、湖を回り込む道のはずでは……」

「あれは建前です。実際は、選択肢に上っていない第三の道を歩いてます。湖とは逆の、最短の道のりですが……見ての通り難易度が高い。

ほら、姫様。生まれたての仔牛のような覚束ない足取りでは、この先危険です。さあ、俺の手に捕まって下さい」


 サクは大きな荷物を左肩に背負いながら、右手でユウナの手を引いた。

 何度も触れる手だというのに、やはり気恥ずかしくてたまらない。

 だが山道に慣れていないユウナは、サクの支えがなければ歩くのが困難で、だから渋々とサクの手を取るしかなかった。


「ふふ、素直でイイ子です。そのぶぅたれた顔さえなければ」

「……ぶぅたれた顔で悪かったわね。子供扱いしないでよ」

「あはは。俺は姫様より年上ですからね。年下を子供扱いできるのは、年上の特権です」


 そして、サクは笑いながら繋いだ手をにぎにぎと力を入れて握ってくる。


「……っ」


 その度に、ユウナの胸もきゅうきゅうと音をたてる。

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