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吼える月
第14章 切望
 



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 四つん這いの女は狂笑し、乱れた。


 舞い散る黒髪。

 艶かしく紅潮する白い裸体。


 口端から涎を垂らし舌をだらしなくちらつかせながら、あまりもの悦楽に、女は白目になりゆく。


 その姿は、牝の淫獣――。



 女の足元には、女が切った父親の骸。

 傍に居た女装姿の若い男は逃げだそうとして……突如宙に浮かび、体を雑巾のように絞られ、身を捩らせ、骨の砕かれる音と共に肉塊と化した。


 血生臭い狂気が渦巻く部屋の中で、女は背後から男に何度も貫かれ、凄まじい快楽に我を失っていた。

 衰えぬ剛直な楔を奥まで突き立てるのは、金色の髪を靡かせる、美しい男。


 金の男は見抜いていた。

 女の瞳の奥に潜む、底なしの闇に――。


 そこに穢れた光を混ぜ込んで、男好みに仕立てた。


 以前抱いた、忘れえぬ甘美な体を持つ姫の代わりに。

 今度こそ、心までを己の穢れに染めさせようと。



 女は気づかない。

 愛する男の未練を断ち切れぬ欲は、強まれば強まるほどに、自らを憎い女の虚像に貶(おとし)めている事実に。

 本来の彼女の姿は消えていく事実に。


 女が玄武殿に赴いた時、祠官代理と共に現れたのがこの男だった。

 この輝かしい金色を見た瞬間、彼女は自らの中で、確かに……なにかが壊れる音を聞いた。


 父の密告に、祠官代理がどんな反応をしていたのか、記憶は朧気。

 気づけば、金色が囁いていた。

 "お前が余に願うのならば、その男の命と体を捧げよ"

 魔性だと、関われば身の破滅だと、本能は警鐘を鳴らすのに、それ以上に欲が煽られた。

 この男に従えば、きっと切望を叶えてくれる、と。


 そして女は、金に服従することを選んだ。愛する男を、憎い女に渡さないために。

 すでに壊れていたのかもしれない。愛する男の外貌が変わった程度で、それが誰かもわからぬ女に男を渡したくないと怒りを滾らせた瞬間から。


 "お前の体はなかなかによい。褒美として、お前の望み通り港への道は塞ぎ、お前より姫に味方した者達に、制裁をくれてやろう"


 性奴と化した女は、快楽の果てにて口元を吊り上げる。

 魔に煌めく表情。

 それは、欲に捕囚された…哀れな女の顔だった――。




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