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吼える月
第14章 切望
「いてててて。なんで急に握力入れてくるんですか。なんの勝負してきてるんですか、指相撲ですか?」
「勝負ではないわ。自分に喝を入れているのよ。――よしっ!!」
「なんで俺まで喝が入るんですか……って、またひとりで自己完結……」
なんとか意志の力で葛藤を押さえ込み、平常心を戻したユウナはサクに訊いた。
「ねぇサク。なんでこの道を通るの?」
「万が一のための保険のためです」
サクはつらりと返した。
「……?」
「親父は、街の民の案がすんなり行くとは踏んでなかったんです。必ず、どこかからか情報は漏れるだろうと」
「そんなっ!! 街の民は一致団結して、あたし達を助けようとしてくれているのに!!」
「……全員ではありません。まぁ……取り越し苦労であればいいんですが、不安の芽を見逃せねぇと、一応の保険をかけたわけです」
「ふ、ふうん……?」
そしてふと、サクは立ち止まり……後方に振り返る。
細められた目線の先には、遠くなった黒崙。
「サク、どうかした?」
「……なんか、悲鳴が聞こえてきた気がして」
しかし遠く離れてしまった場所からは、ユウナは物音を感じ取ることは出来なかった。