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吼える月
第14章 切望
   

「サクの耳は動物並みにいいけれど、黒崙にはハンがいるわ。最強の武神将がいる。きっと……大丈夫よ」

「だといいんですけどね……」


 サクの顔は浮かない。


「親父の力の大半は俺の中にある。そのことで親父が窮地に追い込まれなければいいんですが……」



 サクは胸もとの服を手で掴む。


「なんかね……、ここがぎゅっとするほどの、嫌な胸騒ぎがするんですよ。なんだか俺、一番の最悪事態を忘れているような気がして……」

「最悪事態?」

「はい。一番に危惧しなければならないことを、想定していない気がして。それはたとえば……」


 サクが目を細めた時だった。



「――っ!?」



 目の前の草が揺れたのは。


 そして――。



「あ゛~」


 おかしな奇声が、草むらから聞こえた。

 途端にサクは自嘲気に笑い、警戒に満ちた目を剣呑に光らせる。



「……案の定、ということか。……姫様、俺の後ろに」


 そしてサクは、懐から抜き出したサラ愛用の武器…赤い柄の端を握りしめると、草が激しく揺れると同時に、それを大きく振った。


 シャキンと音がして、柄から伸びたものは長剣となり刃先が固定する。


 草から現れたのは……近衛兵。

 だがそれは、元……そうであったろうと推測される姿だった。


 今、ふたりの目の前に晒す姿は――。



「ひっ!! サク……なにあれっ!!」



 下半身がなく、血生臭い大腸を引き摺っていた。


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