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吼える月
第14章 切望
『……返すことになれば、我との契約は消滅。小僧は……』
不穏に続きそうなイタ公の言葉を遮るように、サク自嘲気に笑いながら腕輪を見た。
"……さすがに親父には言えねぇよな。親父の力すべてが俺に移譲されねぇと、あと数日に命尽きる契約は続行だと。今はただ、イタ公の力で邪痕が見えないように擬装しているだけだと……"
表面上……邪痕が消えているような手首を。
危機的状況にいるハンが、玄武の力を長く必要とすればするほどサクに危険が及ぶ。
自分達と街の民を護ろうと盾になろうとしているハンを犠牲にして、自分が生延びる力がすぐに欲しいなど、思えるはずもなく。
父が時機を見て渡すといっているのだし、ハンの判断に従うつもりでいたのだけれど、それは餓鬼が出現する前の話。
ハンを取り巻く状況は、あの時からますます悪くなる一方。
それを知りながら、両親や街の民が生きるための……父の力を奪い取る気になどなれなかった。
だが、父の力がなければ……邪痕の示す契約は履行される――。
サクが作り出した新生玄武の白イタチは、祠官と武神将に力を分け与えているため、全盛の力を持つ神獣姿の時とは違い、かなり大きな契約の証となる邪痕を消す力まではない。
――ハンは、意識なくとも体内に我の力を循環させ、常に我の力が溢れ出る状態にしておった。それが小僧にはない。つまり、力は失われる一方。
力の返還という力の補給なしにて、イタチ姿における不足分の力を、力の扱い方がさっぱりわからぬサクに補わせることは、時間がかかりすぎる上に大した増長は見込めない――。
そう判断した新生玄武は、ハンが事前に宣言していた通り、ハンから戻った力を併せることで、仮に邪痕を消すことが出来なくとも、せめて鎮めることは出来るだろうと、サクに約束したのだった。
これには、例外があった――。
先住者との契約期日までにハンから力が移譲されないこと。
ハンが力を移譲する前に死んでしまうこと。
ハンからの力を望めない場合、力を補給できる先はリュカしかいない。
リュカが果たして、祠官の心臓を口にして得た玄武の力を、サクのためにすぐ手放すか?
武器が役に立たぬ餓鬼の登場により、今サクは――
当初予定していなかった危機にあった。