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吼える月
第14章 切望
「しかもここからは、港に抜けるふたつの道にも出られる。どちらにしても、人通りはあるし新たな駐屯地もある…。
……姫様、さっさとここを突破しましょう。ここでじっとしていても、元兵士達が完全に餓鬼になる。状況は悪くなるばかりだ。港に直結する崖はあともう少し。……姫様、抱きますよ?」
"抱く"
ユウナはびくりと反応した。
「姫様? ほら、振り落とされないように首に手を回して……」
「あ、ああ……"抱っこ"のことね、ははは……」
「それ以外になにがあるってんですか。……って、コラ、イタ公。お前は姫様の首にしがみつかなくてもいいんだ」
『――!? なんだこの邪気は』
「今頃気づいたのかよ、このねぼすけ。とりあえず落ちるなよ」
そしてサクは、女一人と傍目では亀一匹を抱きかかえて草むらを走る。
「ねぇサク……、ここに餓鬼がいるのなら、黒崙は……」
ユウナの問いに、サクは硬質の声音を返した。
「多分、黒崙は襲われている。戻りたい気分は山々ですが、今戻ったら……俺達は黒陵から出られなくなる。戻っては駄目だと、これは誘いなのだと、俺の勘がそう告げるんです」
「だけどリュカからの攻撃だけではなく、餓鬼までも襲ってきたら!! いくらハンでも、片腕で……しかもサクに力を譲っているんでしょう!? ひとではないもの相手に、ハンは……サラは、街の民は……」
「俺に考えがあります……」
「考え?」
「はい、俺が近くにいなくとも、親父の助けになる方法」
口元は弧を描きつつも、サクの面差しは険しい。
「イタ公……」
走る足を休めずに、サクはユウナの首に巻き付いている白いふわふわとした体の生き物に尋ねる。
心で――。
"イタ公。……親父に力を返す方法を教えてくれ"
それはくいと顔を上げて、くりくりと黒い瞳を動かした。