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吼える月
第14章 切望
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事態は、想定外の方向に急変した――。
サクとユウナを逃がすために、黒崙、港へと至る2つの道、そして更には港とは別の方にもふたりの痕跡が残るように、黒崙の民とハンは画策していた。
ハンの中では、街長やユマの不穏な動きは想定内。
たとえそこから情報が漏れたとしても、サク達が通る真実の道を街長親子に伏せていたため、消去法で残った選択肢の探索に、近衛兵をまだ完全に掌握しきれていないリュカは必ず手間取り、それだけサク達が港に行く時間が稼げる――。
港にも追手は用意されているだろう。だからこそ、陸専用の追手がどうもできない、海原への出航時に飛び乗らせることにしていた。
その出航時間を逆計算し、黒崙からの出立を……そして黒崙の民の一致団結開始を、街の鐘で告げていたはずだった。
それは……民達が相手にするのが、ひとであるのが前提の話。
ひとだからこその心理を突いたものであった。
だが――。
追手として用意されていたのは、近衛兵ではなく……黒陵国に忠誠をたてた警備兵達で、動くのが早かった。
ハンと共に凶夜を超えて遠征から戻れた精鋭達は数人。
だが現在、追手として目撃されている武装した警備兵は数十名。
民の目撃情報を信じるのなら、サクが死んでいたという者達は、ことごとく生き返っていることになる。……副隊長のシュウだけではなく。
食われて欠損しているのに生前の姿で蘇る……これは矛盾。
どうしてもそこに幻術の類いが疑われるのに、サクに力を渡す前の状態であっても、ハンは死人返りの状況にすら気づかなかった。
おかしいのはハンの目か、それとも環境か――。