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吼える月
第14章 切望
黒崙は阿鼻叫喚だった――。
「食われる食われる――っ!!」
「助けてくれ――っ!!」
サラは真っ青な顔で、振り向いた。
爆薬と武器と。
サカキ他数人の屈強の若い衆達と、開かずの裏門をこじ開けている最中に、耳にした絶叫。
風景が……真紅色に染まっていた。
それはあの……凶々しい夜の赤き月色のように――。
人が人を襲い、人が人を食べる凄惨な場面。
仲間が死人になり、死人が仲間を襲う……そんな悪夢。
――サラ、もしも餓鬼を見かけたら、逃げろよ。餓鬼は神獣の力がなければ倒せねぇんだ。俺のために神獣の力を捨てて、ただの女となる道を選んだお前に、餓鬼を倒せる力はねぇ。だから逃げろ。
いつもいつもハンは言っていた。
だからハンは、民を……自分を護るために、盾となったのだ。
今ここで別の出口から民を逃さない限り、ハンは大方の力をなくした神獣の力で、己自身よりも自分達を救うために戦い続けるだろう。
街の内部に餓鬼が居るということは、ハンはどうしたのか。
「ハンは……ハンは!?」
嫌な予感に鼓動がうるさい。
もしもハンが雪崩込む餓鬼を逃すほどに、追いつめられているのだとしたら? もしもこの餓鬼のどれかが、ハンを屠っていたのだとしたら?
嫌だ。
嫌だ。
餓鬼に食われて死ぬことではない。
ハンと別れたままに死ぬことが。
愛しい愛しい……夫。
――俺は、お前と生きる。……約束する。俺は、お前と共に在ると。
言ってくれたじゃないか。
約束してくれたじゃないか。
――俺は一生、お前から離れねぇ。
そう、何度も誓ってくれたじゃないか。