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吼える月
第14章 切望
それが皆、近衛兵の特殊な武具を身に纏い、ハンの武圧に吹き飛ばされながらも、ただ黙々と殺意を向けて立ち上がってくる。
「――ちっ。言葉も通じなければ、輝硬石の武具に、傷ひとつつけられねぇのか」
そして奇声を発して餓鬼が現われる。
「すげぇ大層な数でお越しのようで」
餓鬼はハンに襲いかかろうとはしているものの、その多くは黒崙の入り口を突破しようとするかのように、門に詰めかけ……門や壁を食い始めた。
「なんだ? 餓鬼の動きが……おかしい」
食という本能で生きる化物が、警備兵を襲わない。ハンより先に、ハンが護る街の囲いを壊そうとしている――。
餓鬼には考える力はない。
だとすればこの行動は一体……?
ハンは餓鬼や警備兵を蹴散らし、なにか腑に落ちぬ事態に目を細めながら、鉄の門を護り続けた。
だがハンは知らない。
ハンに餓鬼来襲の異常事態の通告がなされたのと同時期、餓鬼に襲われた重篤者も街に運び戻されており……、民の必死の手当の甲斐なく、彼らが黒崙にて絶命していた事実を。
わかっていれば、ハンはなにかしら手は打った。
生前の姿に情を向ければ、命にかかわる。
餓鬼に襲われ死ぬ者は、新たなる餓鬼になるのだから。
元々餓鬼はどこからどうやって現われたのかはわからぬけれど、餓鬼は犠牲者を仲間にして膨れあがる……そんな厄介な相手だと、ハンはわかっていればこそ――。