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吼える月
第14章 切望
――いいか、逃げろよ。
ハン。
ハン。
――サラ、愛してる。
約束したでしょう?
いつでも一緒だって。
私……死ぬのなら、貴方の隣がいい。
ねぇ、ハン。
私を置いて行かないで。
鉄門横――。
穴の空いた壁から、街の中へと餓鬼が群れて雪崩込む。
「あ゛~」
「きぇぇぇぇぇっ」
「ハン、ハン、ハン――っ!!」
「裏門が開いたぞ――っ」
どこかでサカキの声がした。
サラは薙刀を振るいながら、壁穴を拡げて外に出る。
その顔を、餓鬼の返り血で赤く染めあげて。
「――ハン!?」
そこには――……。
餓鬼と警備兵に囲まれ、血まみれになった夫の姿があった。
警備兵が動く。
「させるか――っ!!」
サラは薙刀を大きく旋回して、ハンを襲いかかる警備兵に切りつける。
華奢な体をしなやかに動かして、薙刀を振り回すその動きは豪快。
おこぼれに与ろうとしていた餓鬼を……その風圧で吹き飛ばす。
「サラ、なんでここにいる!! お前は街の民と……っ」
「私は――」
サラは潤んだ目でハンを睨み付けた。
「街の民の一員でサクの母親でもあるけれど、ハン=シェンウを愛するただの……ひとりの女よ」
髪を振り乱し、鬼のような形相で薙刀を振るう様は……"紅蓮の凶鬼"と恐れられた過去を彷彿させるもので。
「貴方が……私を女にしたのよ。だから私は、女として……貴方の隣で死にたいっ」
「サラ……」
「私はっ!! たとえひとときでも、貴方を手放して生きられない――っ」