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吼える月
第14章 切望
ハンは溜まらないというように目を細めて、大刀を空高く放り上げると、サラを片手で抱く。
「何度惚れ……させるんだよ……。俺だって……お前の傍で死にてぇよ」
そして――、ハンは片耳についている耳飾りを取った。
「街の民は?」
「街の中に餓鬼が発生し、大方はその犠牲になった。残りは、サカキが開けた裏門から避難させているはずよ」
「街の中にも…か」
大刀が落ちてくる。
「畜生、これほど大量の餓鬼が出てくるとは。……これだけ膨れあがっている餓鬼を消す力は、今の俺にはねぇ。俺に出来るのは……せいぜいこいつらを惹き付け、皆が避難する時間を僅か作ることぐらいだ。今ある玄武の力は、その加護はすぐに尽き、餓鬼を集わせた反動を受ける。
この先、俺達に待ち受けているのは死しかねぇ。その死出の旅に……お前も来てくれるか?」
サラは泣きながら微笑んだ。
「サクを逃がした時から覚悟はついてる。
貴方とならば、どこまでも。喜んで――」
ハンの目から涙が零れる。
「不甲斐ねぇ……夫でごめんな」
「不甲斐ない……妻でごめんなさい」
「それでも俺達は……」
「ええ、永遠に一緒よ」
そしてハンは叫んだ。
「玄武の武神将、ハン=シェンウの名において……今ここに、玄武の力を解放す。
……"大旋輪"」
大刀が宙にぴたりと止まり、旋回する。
つむじ風が生まれ、天を貫くような竜巻が幾つも生じる。
地面が激しく揺れた。
そこにサラが長い黒髪を靡かせて、足をふらつかせている餓鬼と警備兵に切り込む。そんなサラに襲いかかる敵をハンが拳で叩きつける。
餓鬼は消し飛び、警備兵も風圧に消えゆく。
ハンが作った竜巻は街を護る壁となり、順調に敵を殲滅していっているかのように見えた。
だが、餓鬼は膨れあがり、外からも街の内からも……まるでハンの力に誘い出されるように集まる。予想以上の多さを見せる餓鬼を前に、ハンの力の勢いは次第に衰え――。
「――がっ」
突如ハンが膝をついて、口から血を零した。
「ハン!?」
「サラ、気をつけろ。――後ろから、なにかが……来る」
カツン、カツン……。
靴音を響かせ……遠方が光った。
……妖しげな、金色に。
サラは、本能的な恐怖を感じた。