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吼える月
第14章 切望
「きゃああああああ!!」
「サラ――っ!!」
サラの胸が斜めに裂かれ、血が噴き出る。
崩れ落ちるサラの体を、ハンが地面を滑るようにして体で受け止め、その衝撃にまた血を吐いた。
よろよろと体を起こし、虚ろな顔をさらすサラの前髪を掻き上げる。
「サラ、サラ――っ!!」
「大丈夫、私はまだ……ハン、ハン……」
ハンは、真っ青な顔で笑うサラを抱きしめる。
ハンの体内には、彼を加護出来る玄武の力はなかった。
使い切ったというよりは、消えていたのだ。
それはサクへ移行が終了したからではない。
自らの命が尽きようとしている前兆であることをハンは悟った。
この男がなにかをしたのか、その大いなる力を前に、自分は最早対抗する術がないことをハンは感じ取り、忸怩たる心地に唇を噛みしめた。
愛するものも守れない屈辱――。
「なに、その女殺しはせぬ。余のモノをしゃぶり清掃する、余の"掃溜め"のひとつに加えてやろう」
男の言葉に、ハンはぎりりと奥歯を軋ませた。
顔つきが見る見る間に怒りのものとなる。
「ハン――。私を殺して」
サラが泣いた。
「貴方の足手まといになる私を、
貴方の手で、殺して――」
「ぐあああああああああ!!」
ハンは空を見上げて吼えた。
力が、力があれば。
いつものように玄武の力があれば。