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吼える月
第14章 切望
「強き者だからという理由で、どんな理不尽なことでも"正義"としてまかり通るというのなら……」
金色の瞳に宿るは、嗜虐的な光。
「これから余がすることは、正義――」
途端ハンは目の色を変えた。
そして口から血が迸る。
「ハン、ハン――っ!?」
「砕けた肋骨が臓腑を突き破ったか、あははははははは」
ハンは四つん這いになりながら、唇を震わせる。
ボタボタと流れる真紅の液体は止めどなく。
そこには屈強さを誇った玄武の武神将としての姿はなかった。
今の彼の姿は、今まで彼が護ってきた……ひ弱な人間のひとりだった。
「わかるか、玄武の武神将。我らの同胞は、そうして死んでいった。圧倒的な力を持つ存在に痛めつけられ、お前のように無力さを呪い、救済の手を伸ばさぬ神を恨みながら……」
ハンは信じられないというように、震える手を見た。
……力がない。
玄武の力による結界力がまったくない。
「ハン、ハン――っ、この――っ!!」
サラの異変を感じたハンは慌てて顔を上げて、声を張り上げた。
「やめろ、サラ――っ!!」
サラが薙刀を男に向かって振るっていたからだった。
男が指を動かす。
すると、薙刀は――。
「お前達の神、女神ジョウガはなにをした? こうして……愛しい者達が倒れていく様を、黙って見てるだけ」
サラの手から離れ、そしてサラに切りつけたのだった。
まるで意志を持ったかのように。