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吼える月
第14章 切望
空からは激しい雨。
その水力をさらなる糧にして、ぬかるんだ地面を抉るようにうねりながら、水流は轟音をたてて男に敵意を向けて攻撃をする。
「忌々しい――玄武、そして小僧よっ!!」
顔色を変えた金の男は、両手を伸ばして波動状の結界を作り出すと、自分を飲み込み圧死させようとする水流の進行を止めた。
だが水の勢いは衰えず、その結界を壊そうと猛るような轟音を奏でた。
その隙に攻め込んでくるのは、ハンとサラ……負傷した夫妻。
今にも消える寸前の灯火だった彼らの心意気は、鋼のように強く。
術に集中しながらも凌いでみせる男に、神気とも言える鋭い太刀筋を見せれば、戦塵たる水飛沫があたりに舞い散る。
飛沫は水流の支配下となり、男の足元にて粘着状の水枷となって男の動きを奪い、男の結界を揺さぶる一撃を加えた。
「サラ、体は大丈夫か!?」
「ええ、不思議と元気。ハンは!?」
「俺も不思議と元気だ。玄武の力がねぇのに、玄武の加護に満ちた心地だ」
「そりゃそうよ。サクが来てくれたんだもの。ハン、あと少し!! 結界が揺らいでいる」
「ああくそっ、しぶとい野郎だっ!! 大人しくしろよ」
もう一歩のところで、刃が男の体に触れられないもどかしさ。
歯軋りする夫妻の、怒濤のような攻撃の手は休まることはなく。
今まで悠然とふたりを眼下に見ていた男の貌が、焦ったように歪みゆく。
「よし、抜けた――っ!!」
ハンが払った刃により、金糸のような髪がはらりと地に堕ちた時、男は叫ぶ声に怒気を含ませた。
「……余が、虫けらに負けるものかっ!!」
声に呼応したように、夥しい数の警備兵と餓鬼が動き出す。
すべては金色の男を護る生きた盾となるために男のもとに集ったのだと、ハンは瞬時に悟った。