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吼える月
第14章 切望
  
 命を捧げることをよしとする絶対なる主従関係に哀れみを覚えながらも、サラと共に積極的にその"防御"を削ぎ落としていたハンは、訝しげに目を細めた。


 くすんでいた金色が、また煌めきを見せている――。


 警備兵や餓鬼が男を護り、ふたりに消される度に、男の光が強まっている事実。


 男は、警備兵や餓鬼の命を、自らの力としている。

 即ち、ハン達が男を護る"防御"を切り崩せば崩すほどに、男は防御を強めていることになる……。

 それはまるで、切れば切るほど増える餓鬼の特質のように。


 だが武器ではそうでも、水の力にて消えていくことに関しては、男の力とはなりえていないようだった。


 つまり――。

 神獣の力でなければ、この悪夢の連鎖は断ち切ることは出来ないのだ。

 神獣が男の回復や蘇生を妨げるからこそ、男は神獣を恐れているのだ。


「サラ、一度引け。このままだと、ゲイの力を強める!!」

「――っ!? ハン、水の勢いがっ!!」

「サクがどうかしたのか!?」


 水の力がぐんと勢いをなくした時、ハンの中で声がした。


――うわわわっ、なんだよこの餓鬼の数っ!! って、姫様……っ、いいです、護るのは俺ですから、姫様――っ。イタ公、ここはちょっとお前に……はぁぁぁ!? 腹減った!? お前あれだけネズミ食って……力使うと腹が減る!?


 ……サクはサクで餓鬼に囲まれた危機的状況の中、色々大変らしい。



 ただハンにはわかった。

 サクに力の使い方を教授したのは玄武自らであり、そして……サクのもとに現われた餓鬼は、きっと自分が相対しているこの男と連動しているということ。


 この男を、なんとかすれば……サクは助かる。


 武神将であれば、玄武の力は肉体での武力に並行して使うのが一番効果的で望ましい。

 どちらか一方しか扱えないというのは、サクがまだまだ未熟なせい。


 だが――。



「――サク、上出来だ――っ!!」



 男の余裕の仮面が剥がれている。

 玄武の力を恐れる真なる顔が剥き出しになっている。

 自分の肋骨を折ったあの力をサクへの力の対抗に用いて、その力の蓄えを急速に減らしているのがわかった。


 それだけで十分。

 それがわかっただけでも、攻撃を有利に出来る隙となるのだから――。
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