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吼える月
第15章 手紙
「きゃははははは。サクちゃん、元気だった~?」
サクは、声をたてて笑う幼女を見た。
構って欲しくて堪らないというように、くりくりと動く好奇心旺盛な目。
あどけない顔をしていながら、無邪気に呼ぶのは……前回よりいまだ自己紹介もしていないのに、普通に呼ばれ続ける自分の名。
「……これ、お嬢様に返事をせぬか」
幼女を抱えながら、馬上から冷ややかに見下ろすのは、どう見ても美貌の兵士……に見える、ハン曰く女。
上質な絹布を体に巻いただけの軽装で、後頭部の高い位置にひとつに結ばれた長い髪が、言葉を発する度にゆらゆらと揺れている。
胡散臭い二人連れ。
服装から推察されるのは、倭陵の中央に住まう……皇主に近いところに居るだろう身分の高い貴族。
このふたりは……ユウナが黒崙から出て行った時、タイラを運んできた者達だ。
敵ではないと前置きして、ユウナにかけられた呪詛が穢禍術であり、その鎮める方法をハンに伝授した、謎の者達。
その場にいなかったサラですら、ハンからこのふたりの素性を知ったようだったのに、その場に居合わせていたはずの自分だけがわからない、そんな腹立たしい訳ありの者達だった。
「これ、お嬢様に挨拶を……」
「俺の名前は"これ"じゃねぇんだけど」
馬上から下賤の者を見下ろすような不快な視線に目を細めつつも、ユウナを助けて貰った恩があるがために、サクは面倒臭そうに頭を掻いて馬に近づき、その場で片膝をついて武人としての礼を見せると、顔を上げた。
「よぅ、チビ。また一段とガキんちょだな」
「お、お主、お嬢様になんと……」
にやりとサクが笑って悪態をつけば、鉄仮面のような表情を崩して女が驚愕に狼狽える。