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吼える月
第15章 手紙
「ユエはチビじゃないもん!!」
「お前ユエっていう名のチビなのか」
「だからユエはチビじゃないの!! チビじゃないユエなの!!」
「チビじゃねぇって言い切るのは、俺より大きくなってからにしろ」
呵々と笑えば、少女の頬は膨れる。
「サクちゃん、前よりおっきくなってずるい~」
「成長期なもんでな。姫様ですら中々俺だと信じなかったのに、一度会っただけのこのチビが俺だとわかるってなんだよ」
サクがむくれ顔で少女の膨らんだ頬を片手で押すと、ぷしゅうと派手な音をたてて空気が抜け、頬が萎んでいく。
「お、お嬢様に……なんと無礼な……っ」
「無礼だろうが、そこのチビお嬢様は遊びだと喜んでるぞ」
「ぷしゅうぷしゅう!! サクちゃん、もっともっとぷしゅ~、きゃはははは」
「あの……」
女が殺気のような視線をサクに送った時、ユウナが言った。
「あたし、どこかで会ったことが?」
訝しげに首を傾げながら、
「どこかで……助けられたことがないかしら。貴方達の声が……聞いたことがあるの。あたしを励まして助けてくれたような気が……」
遠い記憶を辿るように、ユウナの目が細められた。
「気のせいです、私達は初めて姫にお目見え致します。……ユウナ姫、お噂はかねがね。噂通り、お美しい方だ」
女が顔に張り付いた氷を溶かすように微笑むと、ユウナは照れたように顔を俯かせた。それを見たサクは慌ててユウナの元に飛んで行き、その目を自分の手で覆うと、そのまま胸に掻き入れる。
「……姫様、なに女にぽっとなっているんですか。さっきまでは俺にぽっとしてたじゃねぇですか」
「女!? ……でも、いいかも……」
「姫様なにを!!」
女は、馬上から鼻で笑った。
「姿形がどんなに変わり、強くなろうとも、お前自身に魅力なければ女の心は動かん。ま、せいぜい、頑張れよ?」
「……その上から目線が、つーか、その事情通のところが気にくわねぇな」
多分――。
このふたりの素性を知るハンが、過去警戒を抱くような発言をしていたら、サクは速攻挑んでいただろう。
あまりにも平然とした態度で、餓鬼の巣窟のようなこの場に、タイミングよく現われた彼らを。
……出現は偶然ではない。