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吼える月
第15章 手紙
「待て待て!! あの崖は――」
「あの崖は、降りられる場所じゃないのよ!?」
サクとユウナが必死な声をあげるほどに、少女は愉快そうに笑う。
「きゃははは、がんばってね~。応援にこれあげる。その赤い刀につけてあげて」
複雑な図形の模様がついた木札の装飾品。それを渡す少女の顔に浮かぶのは、無邪気ではなくただの邪気。
わかっていて追いつめる、加虐的な者の表情。
それは、女も同様に。
「……まさかお前ら、ここでのほほんとしてたのは、その方法を取らせるために汽笛が鳴るまで時間稼ぎでもしてたのか!? 本当に助けたいというのなら、現われた時に告げていれば、そんな危険なことしなくてすんだだろ!!」
「お嬢様に始めから礼を尽くしていればよかっただけの話。我らよりお前が、よく喋り時間を費やしていたのだ。そもそもこの場で留まる時間が長かったのは、我らのせいか? 我ら待たずして、港に行く時間は十分あったではないか」
「くっ……」
否定出来ないところがもどかしい。
もしも自分がもっと早くに玄武の力で父に助勢出来ていたのなら。
わかっていたはずだったのに、船はまもなく出てしまうことくらい。それを手間取りすぎたのは自分のせい。
すべては身から出た錆――。
「ほらほらサクちゃん、お船でちゃうよ?」
「馬を借りたら、貴方達は……」
ユウナが憂えた表情を見せた。
「ああ、こちらは気にせず。我らには女神ジョウガの加護がある。餓鬼如きに屈しはせぬ。まあ加護があるのは、この馬もかもしれないな。普通では出来ないことも出来るかもしれぬ。たとえば翼が生えたり……」
「姫様、馬に!!」
途端にサクは顔つきを希望に満ちたものにした。
「ええええ、本気で馬であの崖を駆け下りる気!? 無謀よ、無謀!!」
「無謀でも……崖を降りるのが確かに一番の早道。……行きます。きっとこの馬は特別で翼で飛べるんです、天馬です。お前ら、すげぇ馬ありがとな」
「サク、サク――っ、ちょ……きゃああああああっ!!」
サクとユウナを乗せた馬は、崖から消えた――。