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吼える月
第15章 手紙
「うーん、残念ながらただのお馬さんなんだけどね、兵士さんのを奪った」
「なにが可能でなにが不可能か。その判別ができずに、あそこまで容易く……"かもしれぬ"話を都合よく信じてしまうとは…。最後の、あの者の輝かんばかりでの笑顔の礼が、少々……心痛く」
少女と女が哀れんだ顔で呟いた。
「そうした素直さが、サクちゃんのよさといえばよさなんだろうけれど。言葉変えれば……ただの馬鹿?」
女が少女に同調するように、嘆息をついた。
「本当にあの者、玄武に見込まれたのでしょうか。あの頭の上で寝そべっていたのが玄武というのなら……なんというか威厳がなく。まぁ親しみやすさが出たといえばそうなのでしょうが。イタチとは……」
「ふさふさの白イタチ。今度起きてたら触らせて貰おうね、きゃはははは……」
「お嬢様はふさふさが好きですからねぇ。お触りになりたいのは、玄武だけではないのでしょう? 玄武と融合した……」
「ふふふふ、それ内緒。今度はユウナちゃんとも遊ぶんだ。鬼ごっこしようかな、楽しみ〜」
「それも姫やあの礼儀知らずの男が健在であればのこと。ああ、凄まじい悲鳴が消えていきますが……大丈夫でしょうか」
「大丈夫、大丈夫。"獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす"……サクちゃんは叩かれて強くなって貰わなくちゃ。そうでなければ……」
少女が泣きそうな顔で、女の服を掴んだ。
その意味するところを悟り、女は憂えた顔となる。
「お嬢様、ハン=シェンウは……」
「ひとである限り、たとえ武神将とて神獣の力をひとの都合で勝手に誰かに移譲させたり、誰かに宿る力を勝手に使うことはできない。代償という捧げ物を伴う、嘆願の儀以外には。
慣習として伝わってきた正式な儀式を望めない以上、サクちゃんを武神将にするには嘆願の儀しかないと、元より知っていたはずだよ、彼は……」
「……だったら最初から…」
「代償を捧げてもいいとするお父さんの"切望"が、その選んだ結果が、……サクちゃんに優しく届けばいいのだけれど……」
少女が笛を吹く。
その調べは優しく、そして悲しげなものだった――。