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吼える月
第15章 手紙
「あれは……リュカ!?」
ユウナが驚いた顔をして、甲板から身を乗り出した。
驚愕と恐怖と怒りと――。
ユウナの顔には様々な激しい感情が入り混ざる。
餓鬼の群れの中、まるでその長(おさ)かのように佇むリュカは、その服を真紅で染めているのに、神々しい青い光に包まれていた。
その青い光は、まぎれもなく。
餓鬼を隔てる海の壁を作っている……玄武の力――。
「リュカ……。なんであいつ……」
『餓鬼からこの船を護っているのだろう、あの者は。小僧達を死なせたくないのか、ただ単に……これから行こうとする次の土地に、なにか仕掛けてでもいて、早く誘導せんがためか』
能面のように無表情で佇むリュカもまた、じっとサクを見つめていた。
海の防壁に阻まれ、餓鬼がひとつまたひとつと消えて行く。
……船が遠ざかる。
生臭い血の臭いが遠ざかって行く。
ユウナには、揺らめくような青い光に包まれているリュカが……その色のように儚げに見えた。
リュカとサクの距離はあまりにも遠すぎて。
それなのに、見つめ合うふたりは、誰よりも近い場所にいるようにユウナには思えた。
以前はそこに自分もいたのに……これもまた"男同士"しかわからぬものだというのだろうか。
時は残酷だ。
笑い合った日々は確かにあったというのに、今はただ睨むように無言で見つめるしかないとは――。
見つめ合うことで生じているのは、決して迎合や和解などではなく。
ましてや遠ざかる今の状況のように、道を違えてしまったことに、彼ら自身悔いている様子もない。