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吼える月
第15章 手紙
『サク――。
誰が聞いているかわからねぇから、お前にこれを記しておく。
昔からリュカは頻繁に外出していた。
それは山中に匿っていたゲイとかいう男に会いにいき、武術指南をも受けていた……と思ったが、些か気になる点がある。
リュカのひきずっていたあの足、だ。
あれは、定期的に玄武の力を通しても回復の手応えがなかったものだ。
フリをしていたとしても、俺にはその真偽がわかる。
それが実は動く……のだとすれば。
そこには玄武の力を欺けるほどの、玄武を超えた力の"擬装"があったこと。
他の神獣の介入があったのか?
青龍、白虎、朱雀……他の四神獣の力は、武神将や祠官の力量に左右されることがあっても、その総量はすべて等しいと言われている。
だから玄武の力が他の神獣の力を、まるで感じ取れないということはありえねぇんだ。
お前が辟易するまでの武術を、リュカが身につけているというのなら、隠密な武芸鍛錬中に足は動かなかったということはねぇ。
俺は鍛錬に際して常にお前に言っていただろう。
必ず体のすべてを動かせと。
どこかひとつでも鍛錬を疎かにした部分があれば、そこが弱点となる。武芸の熟練者にはそれを一発で見破られ、攻め込まれて終わりだ。
あの夜、リュカが祠官から奪った力の影響で、その場で足が動くようになったのだとしても、動くようになったばかりのそんな付け刃の相手を、お前がねじ伏せられねぇわけはねぇだろう。
お前の戦闘センスを信じる限り、リュカのその足も鍛えられていたと俺は思う。
実際、黒崙にて久しぶりに見たリュカは、あの足も体つきも…鍛錬していたもののようにしっかりと力強い。
今まで引き摺っていた名残などなにもなかった。
慣れていたように思えた。引き摺らねぇ足の扱いに。
だとすれば、リュカの足を玄武以上の力で癒やし、"擬装"させていたのは誰か。
その者は、神獣以上の力があるってことだ。