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吼える月
第15章 手紙
 

では、祠官にとって飲まず食わずで結界を張らねばならぬ一番大事な夜に、なぜ祠官は不用心にも、本殿へ至る鍵を外したのか。


最初から解錠してようが、途中からだろうがさして大差はねぇ。問題になのは、祠官自らが外部と接触できる状況にしていた、ということだ。


さらに言えば、扉が開いていたとしても、くぐり抜けようとする際に結界が侵入者を弾く。


お前がその結界を破って内部に入れたのは、祠官が既に死んでいたからという理由が大きいだろう。不幸中の幸いというものだ。


だが、祠官以外に生きて紫宸殿への扉を開けて出入り出来るものがいる。

……あらかじめ祠官が出入りを許した者だ。


あの夜は、どんな者でも紫宸殿の出入りを禁じられていたはずだが、リュカが外鍵を外したのであれば、リュカは祠官に出入りを許されていたということ。

あれだけ祠官の寵愛を受けていたリュカだから、それも例外的にでもありと寛大に受容し、さらには、ふたりしかわからねぇ密会の約束があったとしてもだ。

リュカがそれに乗じたフリをして紫宸殿を訪れ、祠官を殺したとしてもだ。


解せないのは、紫宸殿に出入り出来たのは……それまで祠官から遠ざけられていた姫さんもだ、ということ。

その後を追ったお前が結界に阻まれたなら、その前に姫さんが飛び込んだ時には、結界はまだ有効だった。姫さんが無事に中に入れたのは、偶然じゃねぇだろ。


祠官は奥方が死んでから、人が変わった。

リュカだけの意見しか聞かぬようになり、今まで可愛がっていた姫さんまで遠ざけ、いつでも目がぎらついて"異常"だった。


さらに今まで姫さんが夜、紫宸殿に赴くこともないのに、どうしてその夜に限って祠官は姫さんの出入りを許可していた?


俺は、どうしてもこれがひっかかる。

娘だから、という理由だけではどうしてもしっくりこねぇんだ。


お前もわかっているだろう?

奥方が死んでからの祠官は、リュカだけがすべてだという事実を。祠官のすべての視線の先にはリュカがいた。


嫁ぐ娘と話したい情に駆られたというのなら、何年も前から倭陵中騒いでいる、祠官踏ん張りどころの夜にしなくてもいいだろう。


リュカにしろ姫さんにしろ。

なんであの夜に限って、そのふたりだけを許可していたんだ?

祠官は、なに不可解なことをしようとしてたんだ?



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