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吼える月
第15章 手紙
玄武殿を構成しているのは3つ。
リュカら臣下達が住まう離れ。
姫さんら祠官家族や、選ばれた侍女達が住まう本殿。
祠官が祈りを捧げ、会議や謁見を行う部屋がある紫宸殿。
離れ⇔本殿⇔紫宸殿。
これは夜、内鍵と外鍵、両側のふたつが解錠されねば扉は開かぬ。
さらにその扉には警備兵が見張りについているのが常だ。
だが惨劇の夜だけは特例だった。
十分の事前警備の上で、本殿の部屋に居たのは姫さんただひとり。
祠官は、予言の成就を阻む結界を張るために、ただひとり紫宸殿に籠っていた。ひとりでいるために、紫宸殿側の扉には警備兵は配置されてなかった。
「離れ→本殿→紫宸殿」…これは、姫さん以外を殺しながらリュカが開けたのだろう。
「離れ←本殿」…これはリュカを招くべく姫さんが開けたのだとすれば、「本殿←紫宸殿」はどうだ?
あの夜、賊が紫宸殿に近づかぬようにと、その入り口には特殊な結界が二重にかけられていたはずだから、第三者が忍び込んでいて内鍵を外した…とは考え難い。
内鍵に触った時点で悶絶、或いは死んでいるだろうからな。
そんな奴が扉付近に転がっていれば、追いかけて紫宸殿に来たお前も気づくはずだろう。
それに祠官が紫宸殿に入りその特殊な結界を張る直前まで、警備兵達も紫宸殿に賊が潜んで居ないか、十分過ぎる程に安全を確認したはずだ。
つまり、紫宸殿の内鍵を開けられる者はひとり。
紫宸殿にひとりで居る、祠官だけだ。
それ以外では、あの扉は開かないのだ。