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吼える月
第15章 手紙
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それから半刻――。
大きな帆船は黒陵国を出て、蒼陵国へと向かう光差す碧海を渡っていた。
帆船は海を知り尽くした蒼陵国で作られたしっかりとしたものであり、多少の強風でもびくともしない。
乗客は総勢で20名あまりと、普段より数が少ないのは、近衛兵が厳選して発行していた手形が少ないからだった。
そのため、大きな船の内部は広々と使え、普段は裕福層にしか解放されぬ簡易的な個室も使え、乗客は快適さを感じていた。
海原は天候が定まらず、ころころと変わる。
ついさきほどまでは小雨が降り大雨となるものだと誰もが予感して身構えていたものの、それが突然ぴたりと止んでここまでの晴天。
以来ずっと晴れ続けており、過去渡航経験のある乗客は、今までこんなに素晴らしい天候には恵まれたことはないと、喜んでいるほど。
その天候にしたのが――。
試行錯誤しながらも……玄武の力の制御の練習を兼ねた、サクの仕業だと知るものは、ユウナ以外にはいない。
出港の際のあの血に染まった恐怖の場面を夢にしたいかのように、乗客達はやけに上機嫌で、船を下りるまで仲良くしようと和気藹々とした和やかな雰囲気に包まれていた。
ひとは、真に隠したい心や思案しているものがあれば、それに触れられまいとして妙に陽気になる。
それは、ユウナも同じだった。
故郷が視界から消えてから、ユウナは妙に陽気となって笑ってばかりいた。興奮状態で落ち着きがない……と思えば時折ぼんやりとして。
そこにどうしても、最後に故郷で姿を見せたリュカの影を払拭出来ないサクは、さきほどユウナに言いかけた質問をなかったことにしようとしていた。