この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第15章 手紙
ハンの手紙に触発された、サクにとっては辛い1年前のこと――。
考えろと言われても、決定的だったその時のことを考えるだけで心が抉られるような心地になるし、ハンの手紙も文面からして、僅少でも希望があると捉えていいのか疑心暗鬼で。
だからユウナの口から真実を聞きたかった。
だが、今思えば――。
たとえ1年前になにがあろうとも、それから1年経っている。
リュカがあの夜、ユウナを抱こうとして、ユウナはそれに応じようとして離れの鍵を外した。
自分以外の男に抱かれてもいいとユウナが思っていたのだ。
その事実は消えない。
今さらそれを蒸し返してなにになろうか。
どんなに自分が変わって、どんなに濃厚に身体を繋げ、その結果ユウナが男として意識してくれていても、それはあくまで外見が変わったからという理由だけの逡巡。混乱。
――姿形がどんなに変わり、強くなろうとも、お前自身に魅力なければ女の心は動かん。ま、せいぜい、頑張れよ?
真なる心のひと動きに、自分は勝てない――。
サクの心がキリキリと痛んでいた。
考えることは沢山ある。
この船でもしなければならぬことは山にあるのに、どうしても考えてしまうのは、ユウナのリュカへの想い。
裏切られても追いつめられても、正気でない状態にも……リュカに反応していたそのユウナを思い出す度に、自分の方を見ろと組み伏せたくなる。
どうすればリュカを忘れさせられるのか。
それともそうした恋心を、放置しておくしかないのか。
「どうしろってんだ……っ」
これからふたりきりだというのに、最初からこんなのでは先が思いやられる。
リュカは……蒼陵国にまで追手を差し向けてくるだろうか。
リュカがなにを考えているのかわからない。
ハンの手紙通り、リュカに対しては疑問があった。
だから憎みきれない。
「なぁ、リュカ……。どうして黒崙でも港で俺達を助けた? あそこまで玄武の力を制御出来るようになって、どうして船を壊さなかった? 近衛兵には壊せと命令しておきながら……」
憂えた顔のサクは、考えても出ない答えに、深いため息をつくのであった。