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吼える月
第15章 手紙
「だけど……心得ています。姫様の心は俺にはないことを。俺は姫様にとって、ただの護衛で幼なじみで、家族……以上の仲で。今ですら、姫様は嫁になることに特別な反応を示してくれなかった。心外という反応以外は。
特別と言われても、きっと俺が望む特別とは違うこと、俺にはわかっているつもりです。だけど……嬉しかったです。俺に心を望んでくれて」
自嘲気に笑うサクは、愛おしげにユウナの頬を片手で撫でる。
「押しつける気はありません。姫様がこんな時につけこむのは、俺も嫌です。ただわかって貰いたい。俺が今までとなんら変わらず、今でも姫様を……女として好きなことを。姫様は昔通り、穢れなどないことを。
それなのに、女として幸せになってはいけねぇなんて、そんな悲しいことは言わないでください」
「………っ」
「……姫様。今回、姫様に非はありません。姫様は被害者なんです。だから苦しんでいる分姫様は、ひととして、ただの女として……誰よりも幸せになる権利があります。
恋や愛がわからないのなら、俺が…教えてやる……っ」
絞り出すような苦しげな声。
端正な顔を、真剣ゆえに悲痛さ滲むものにさせたサクは、眉根に皺を寄せてぎゅっと目を細めると、哀しげに笑った。
「……と言いたいところですがね、俺は姫様を組み敷くような"男"として、姫様を怖がらせたくないんです。この世すべての男が姫様の敵になろうと、俺だけは姫様の味方でいたい」
儚げにも見えるほど、徹底された欲の抑圧。そこにサクの優しさを感じて、ユウナの胸は突かれて切なく疼いた。
しばし沈黙が流れ、やがてサクはやるせなさそうに笑って言った。
「この想いも本当は今、言うつもりはありませんでした。ですが言ってしまった以上……俺も覚悟を決めました。俺は――」
頼りなげな光を宿していたサクの眼差しに、確固たる強い光が宿り、力が籠る。
「姫様に、俺を男として求めさせます。
姫様から俺だけに動く心があるのなら、俺が弾かれることはねぇでしょう」
それは、考えることが苦手なサクなりに考え出した、“生き残る”ための極論。
そしてそれこそ、難問であることはわかっているのに、その闘いを既に決意していたサクは、
「姫様から、嫁にして欲しいと言わせてみせます」
やけにすっきりとした顔で笑った。