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吼える月
第15章 手紙
しかし興奮するユウナには、どうしてもサクのその言葉を本気のものとは思えなかった。同情めいた冗談のような優しさに思えるのだ。
自分はまだ、女としての欠落品ではないことを、女としての幸せをまだ望める状態にあると、必死に証明しようとしてくれているのだと。
「サク、心配してくれてありがとう。あたし未婚のままでいい。サクと一緒に生きて、サクに恥じないくらい必ず強くなってまた黒陵に戻る。
あたしもう……愛も恋もいらない。女として幸せはいらない。ただ願うのはサクや、大切な人達の幸せだけ……――」
サクの唇がユウナの頬に触れ――、
「姫様は恋愛に傷つき、現実から逃げてるんです。強くなろうとするのなら、まずそれを克服しねぇと」
ユウナは言葉をとぎらせた。
「姫様は確かにリュカが好きでした。だから俺は……1年前、姫様をリュカに任せたんです。そうじゃなければ、俺は譲らなかった」
真摯なるその顔が、ユウナに向けられた。
「譲ったのは、相手がリュカだから。相手が姫様が好きな男だったから。そうでなければ、俺は譲りませんでしたよ」
苦しげにぎゅっと細められた目が、ユウナの心を熱くさせた。
「俺以外の相手、絶対俺は認めなかった。誰が認めるもんか。
あの時、俺は――っ」
「サク……?」
「俺を……選んで欲しかったです。俺は、姫様の夫に……選ばれたかった……っ。姫様を幸せにすると……あの場で俺が誓いたかった」
それは血を吐くような悲痛な叫び。
わなわなと震える己の唇を、くっとサクは噛みしめた。
「……俺、姫様が好きです。
嫁にしたい気持ちは、変わっていません。昔からずっと……」
「……っ!?」
初めて、サクがそんな心をもっていたことを知ったユウナは、驚愕に目を見開き、完全に涙を止めてしまった。