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吼える月
第15章 手紙
ユウナはなんでこんなに幸せそうな顔で寝ていられるのだろう――。
サクから零れるのは、微笑みではなく切ないほどの愛おしさ。
「起きれよ」
自分がいない夢の世界で、幸せにさせたくない――。
彼女が幸せを感じるのは、いつでも自分の傍であって欲しい。
「俺のもとに帰ってこいよ、なぁ……ユウナ」
半開きの愛らしい桜色の唇に、自分の唇を重ねたくなる。
そこから自分が育ててきた愛を、濃厚に注ぎたくなる。
「俺、まだまだ言いたりねぇんだよ。あれだけで俺の想いのすべてなんて思うなよ」
優しく激しく、己の情熱のままにユウナを愛でて、自分だけしか考えられないように作り替えてしまいたくなる。
身体も心も、強く強く繋げて誰にも断ち切れぬものにしたくなる。
ああ、今まで抑えてきたはずの欲望だけは限りなく増大するというのに。
如何せん――、
惚れさせてみせると。
嫁になりたいと言わせてみせると。
そう豪語した以上、それがサクの仇となる。
「俺って本当に馬鹿。後先考えねぇから……」
嫌われぬようにと先制したつもりが、かえって足枷となった現実。
あんなこと、格好つけて言わねばよかったと、既に悔いる始末。
1年前に諦めた願望を、蒸し返してしまった自分。
ユウナが恋愛に対して尻込み、リュカを選んだことに悔いを見せたから。
そしてユウナが嫁の言葉を真剣に深く考えようとしていなかったから。
ほとんど……衝動的な、予定外にしてしまった啖呵のような告白だった。
するのなら、もっとユウナの心を育てて、もっと落ち着いた時に、もっと雰囲気ある場所で。
「……そう思っていたのに、なんたるザマ。15年以上かかった、一世一代の告白なのによ……」
項垂れ大きなため息をつくが、サクの心に生じていたのは失望感だけではなく、それ以上のものが生じていた。
「どこまで伝わったのかはわからねぇけど、消化不良感は残るけど……すげぇ気分がいい。いままでぐじぐじして思い悩むだけだった俺にとって、貴重な一歩を踏み出した気がする」
そして改めて気づく。
自分の刻は、1年前から止っていたのだと。
それが今、ようやく動き出した気がしていた。
景色に、色がついたような気がしていた。