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吼える月
第15章 手紙
「……すぅ、すぅ……」
「………」
「……すぅ、すぅ……ん……サ、ク……」
「……っ!! 駄目だ、可愛すぎて平常心ではいられねぇっ!!」
無防備にもぐっすり寝入るユウナの横で、サクは目を開いた。
その顔は真っ赤だった。
「はぁ……、俺の方が意識しまくりかよ……。なんで姫様の方が熟睡してるんだよ。しかも俺の名前を呼ぶなんて、どんな虐めだよ、反則すぎるじゃねぇかよ。ふたり旅が始まったばかりなのに、俺……この先普通の顔できるのかよ。
やっべ……。俺、姫様の態度ばかり気にしたけど、一番気にすべきは俺自身だったのかも。ああ……言う時期、しくじった気がする……」
ユウナを想い続けて、15年以上。
初めて本人に打ち明けてしまった、苦しい胸の内。
女の自信を無くすユウナをなんとかしたくて、衝動的に出してしまった愛の言葉。
ユウナの愛を懇願するより、嫁にしたいなど……後から考えれば順序もすべてめちゃくちゃで、自分は何様だと気分も滅入ってくる。
さらに、ユウナの気持ちが向くまでは想いをぶつけないなどと言いながら、自分優位に進めようとしたはずが、なにか幸せ気分に気が昂ぶって、再度愛の言葉を紡ぎ出したくなり……、これでは約束違反だと慌てて、寝たふりをしてその場をやり過ごそうとしたのだが――。
殺気めいた攻撃は事前回避できたものの、精神の高揚に猛る自分の分身を刺激されただけではなく、じっと顔を見つめられ頬に接吻まで貰い……、さらには、このしつこいばかりの長年の横恋慕を詰られるどころか、嬉しいと、愛を教えて欲しいなど、こっそりと可愛く言われてしまえば。
拒まれることなく、こうして無防備に寄り添われれば。
どさくさ感と不器用さが拭えぬ、無骨な告白も少しは効果があったのかもしれないと、……狂喜に意識が遠のきそうで。
なにをしても、勝手な妄想だけがぐるぐると頭に回って、身体の火照りが止らない。