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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
昔、よくハンに怒られて素振りをし続けるサクをこうしてひとり眺めていたユウナは、退屈になるとよく甘い声をかけていた。
昔ならば、傍で月餅を取り出しただけで、ぱぁっと幸せ顔になったサクが飛んで来て、仲良くふたりで半分こずつして食べて休憩をしたものだ。
……勿論、その後ハンが烈火のように怒り狂い、なぜかユウナまで鍛錬に付き合わされたこともあったが。
だが今、そうした自分の誘いにサクは乗らない。それが少々寂しく感じて、再びユウナは声をかける。
「疲れたでしょう? 膝枕欲しいならあげるわよ?」
ぱんぱん。
ユウナは自分の膝を手で叩いた。
ぴくり。
身体を震わせ、こちらに向いたサクの目線。
「膝枕。昨日してあげたじゃない? あれ……もう嫌?」
昔は喜んで飛んで来て、一緒にお昼寝をしたものだ。
……勿論、その安眠を妨害したハンの怒りは凄まじく、やはりユウナもとばっちりを受けて、お尻をぺんぺん叩かれたが。
「――っ、……い、いえ、今は鍛錬中なので、遠慮させて頂きます」
かなりいい線いったと思うのに、やはりサクは乗ってこない。
成長したのは身体だけではなく、誘惑に対抗する精神力も……らしい。
ユウナとしては、鍛錬など二の次にして甘えて欲しかった。
昔のように、喜怒哀楽を共にしたかった。
だが今のサクは、中々に心を見せない。
サクが成長してから、厳密に言えばリュカとの婚約が決まってから、こうしてゆっくりサクの鍛錬姿を見たり、ふたりきりの時間を持っていなかった気がする。
いつもいつもサクは、リュカに遠慮するようにして、部屋から消えてしまっていたから。
だから不謹慎ながらも、こうしてサクとだけの時間が戻ったのは懐かしくて……嬉しい心地がするのは真実。
汗ばんだその身体。
はだけた服から垣間見える筋肉の盛り上がり。
もう完全に大人の男のものだ。
サクとすれ違いが多かったこの1年で、またサクは成長し……そして黒崙でサクは劇的に変化してしまった。
今でも、自分が昔から見知った……少しあどけない彼の笑顔をみなければ、別の男のように思えて戸惑う。